2022年6月 気になった本

6月に読んだ21冊のうち、特に気になった本をピックアップして紹介します。

おしゃべりな脳の研究

読書をしたり、物を考えたりするときに、脳の中に響く「声」について深掘りされている本です。脳関係の書籍をよく読む私ですが、この切り口の本は初めてでとても興味深く読めました。

本の中では、読書中に文章を読み上げる声と、本の内容に対して自分の考えを主張する声がぶつかって、読書が遮られることについても触れられていたのが印象的でした。改めて意識すると、確かに何度も自分の声に遮られながら読書しているなと、この本を読んでいる時に何度思ったことでしょうか。

進化と人間行動

人がどうしてそう考えるのか、そのような行動を取るのかの理由を進化をベースに説明してくれる本です。

同じようなアプローチの本は「進化心理学」などで検索すると山のように見つかりますが、2000年の初版から22年を経ての全面改訂された第二版という歴史の深さもあり、教科書的に綺麗にまとまっている印象です。

この本を読んで、意外な発見を一つ挙げると、「群淘汰は間違い」ということです。群淘汰とは、他の個体のためになる行動をする利他的な個体がいる集団が、集団として生存・淘汰の対象となる現象です。通常の淘汰を考えると、利他的な個体は自分の遺伝子を後世に残す上で不利となりますが、利他的な個体がいる集団が、そうでない集団に比べて生存に有利に働くなら、利他的な個体も進化のフィルターを通過できるだろうと考えられてきました。

ところが、実際には群淘汰としての利他的な行動による生存率の上昇は限られていて、利他的な個体は淘汰の運命から逃れられないようです。その代わり、利他的な行動は、生まれた時から既にある集団に参加するために役立つので、進化的に利他が生まれ得るという考え方が説明されていました。

われわれは仮想世界を生きている

VR、AR、MRといった仮想世界が話題になって久しいですが、この本は、私たちが生きているこの物理世界自体が仮想世界であるというシミュレーション仮説に関する本です。

この本で最も印象に残っていることは、条件付きレンダリングと量子観測の対応です。条件付きレンダリングとは、テレビゲームなどの映像を表現する際に取られる、計算削減のための手法です。ゲームでは画面に写っていない世界も存在しているはずですが、画面に映る範囲に入るなど特定の条件が満たされるまで、処理を行わないという方法が使われます。この条件付きレンダリングと、観測するまで物理量が確定しない量子とを対応させて、シミュレーション仮説を述べているのは他にはなくユニークだと思いました。

シミュレーション仮説については、シミュレーションされた世界が、また、世界をシミュレーションするという入れ子を続けることができて、無限の計算リソースが必要になるように思えるということを、昔ブログで書いたことがあります。この本でも「連鎖するシミュレーション」として、話題に触れられていました。

IBM Quantumで学ぶ量子コンピュータ

量子コンピューターも話題になって久しいですが、いよいよ理論ではなく実践に寄せた書物がちらほら現れ始めています。

IBM Quantumは無料でクラウド上の5ビットの量子コンピューターを利用できるサービスです。このIBM Quantumと、開発ツールqiskitを使って、実際に手を動かしながら量子コンピューターを学ぶことができる一冊となっています。

本の内容も、ゲート型の量子コンピューターを使ったアルゴリズムから、量子アニーリング、そして、パラメータ化された量子回路を従来の最適化にかけるQAOAや量子機械学習と、網羅的に扱われています。

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